ピーエスの取り組み - 学術論文

6.7311 Ehrlich腹水癌における実験的免疫現象

榎木義祐

医学と生物学 第82巻第5号 1973年11月10日

さきに我々は1-4)、次のことを報告した。細菌菌体成分を用いて、Shwartzman 型の生体反応をハツカネズミのEhrlich 固型癌の腫瘤の部分に起こさせると、癌組織をも壊死せしめることができること、腫瘤が縮小し消失したハツカネズミには再度のEhrlich 癌の皮下移植や同系皮膚移植に対して抗移植性の免疫が生じること、菌体成分と無関係にゼラチンやその近縁物質によっても、この免疫が誘導されたこと、 Ehrlich 癌に抗移植性の免疫をもつハツカネズミの皮下に移植されたEhrlich 癌細胞は凝固壊死におちいったことを報告した。 Ehrlich 癌に対して抗移植性の免疫を持つハツカネズミの腹腔内移植に対して如何なる免疫反応が見られるかは興味ある問題であるが、上記の免疫は固型癌に有効である のに反して、腹水癌には有効に作用しなかった。すなわち、5 x 106個の皮下移植に耐えたハツカネズミも同量の腹腔内移植で壊死したので、免疫力を増して腹水癌に対しても抗移植性を示すハツカネズミを作り、この腹腔 内へ移植して、下記の所見を得たので報告する。

方法と結果

ホルムアルデヒドでアミノ基をメチレン重合した豚皮ゼラチン1%水溶液0.3 ccを7日間隔で計5回ハツカネズミの鼠径皮下に注射し、最終注射後7日目に5 x 106個のEhrlich 癌細胞を臀部皮下に移植した。
 7日後全例に腫瘤を触れたが、2/3は腫瘤は縮小し消失して移植は成立せず、1/3は移植は成立し癌死した。1ケ月後生き残ったものに再度5 x 106個の皮下移植を行った。移植は成立せず全例生き残った。さらに1ケ月後また同量の皮下移植を行い、全例生き残った。総計 15 x 106個の皮下移植に耐えたものに5 x 106個の腹腔内移植行うと半数は腹水がたまり癌死し、半数は腹水はたまらず移植は成立せず生き残った。このを5 x 106個の腹腔内移植に耐えたものはその後10倍量の腹腔内移植にも耐え生き残った。
皮下ならびに腹腔内へのをEhrlich 癌移植に耐えたハツカネズミの腹腔内に1.2 x 107 個のEhrlich 癌細胞を移植し経時的に腹腔穿刺により小量ずつ内容を取り出して位相差顕微鏡によって細胞を観察した。
移植後2時間で癌細胞の周囲に円形細胞が付着するものが見られ、3時間半後には 60% の癌細胞に(図1)のごとく1-15個の腹腔内の円形細胞が付着しロゼット状となり、5時間後には癌細胞溶解が起こり回収不能となった。

図1.

考察

担癌動物は癌細胞壊死を起こすほど強い免疫を作らないことが癌を難治性のものとしている。しかし実験的に皮膚移植にては凝固壊死、腹腔内移植においては円 形細胞による細胞性の免疫現象が観察された。一方血清によってこの免疫が移されるということを考えると、細胞性の免疫反応に先立って体液性の機転が存在す ると考えられる。癌の免疫を組織移植の免疫の延長線上に考えるならば、通常は拒絶されない移植癌の組織を拒絶する生体反応はさらに進めば自己の組織の変性 壊死を起こす可能性も考えられるが、現在までのところこれらのハツカネズミに自己免疫病の発生は見られない。

English Title for NO.7311:Experimentally acquired immunity to Ehrlich's ascites carcinoma in mice
Yoshisuke Enoki [Department of Microbislogy,Osaka Medical College,Takatsuki]Medicine and Biology.
87 5:November ,10,1973.

  1. 榎木義祐: Shwartzman型反応による Ehrlich固型癌の治療実験. 本誌70(4): 197-200 1965
  2. 榎木義祐:ハツカネズミの実験的獲得性の腫瘍移植抵抗性と同系皮膚移植の拒否現象. 本誌74(3): 185-186 1967
  3. 榎木義祐:Allergic necrotizing reaction applied to mouse tumor and experimentally acquired resistance of mice to the tumor transplantation and skin iso-graft. 仁泉医学 11(4): 197-203 1968
  4. 榎木義祐:ハツカネズミの移植癌に対するゼラチンならびにその重合物による抗移植性の免疫. 本誌 82(2): 81-83 1971
(受付:1973年8月10日)
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