ピーエスの取り組み - 学術論文

4.6476 ハツカネズミの実験的獲得性の腫瘍移植抵抗性と同系皮膚移植の拒否現象

榎木義祐

医学と生物学 第74巻第3号 1967年7月10日

ハツカネズミのEhrlich 固型癌の腫瘤の部分にShwartzman 型と見られる局所反応を惹起せしめることにより癌細胞に壊死を波及させることができ、高率に固型癌を治癒せしめることができる。たんに癌細胞に壊死を波及 せしめることができるというのみでなく、一度治癒したハツカネズミに再度癌細胞を皮下に移植しても例外なく移植に成功せず、強い抗移植性の免疫を残してい ることがわかる。しかし血清中には特異抗体は検出できず、またその免疫は胎盤を通じて次の代のハツカネズミには伝わらない。これらのことがらはすでに報告 した1, 2)。
そしてこの免疫現象と皮下移植、臓器移植の免疫の問題との類似について推論した。
著者は今回Ehrlich 癌細胞の皮下移植に対して抗移植性を示すハツカネズミが同時に同系皮膚移植に対しても抗移植性を示すことを確認したので報告する。

実験方法ならびに結果

すでに発表1)したごとき方法で得たEhrlich 癌細胞の皮下移植に対して抗移植性を示す雌のハツカネズミ(DD)31匹と同系の雌の健常無処置ハツカネズミとの間に相互に皮膚移植を行った。エーテル麻 酔下に側腹から背面にかけての皮膚をアルコール消毒の後直径6 mm の円形に皮膚全層を切離し、2群のハツカネズミ相互間に無茎弁皮膚移植を行い創縁を数カ所絹糸で縫合した。感染を防ぐ目的でアプシード注射液(Sulfa 剤の10% 水溶液) 0.2 ml を鼠蹊部皮下に注射した。健常無処置ハツカネズミからEhrlich 癌細胞皮下移植に対して抗移植性を示すハツカネズミへ移植された皮膚片の24例は8日から11日の間に脱落し肉芽面が露出し、7例は移植片が著明に乾燥し て萎縮した。皮膚脱落の促進反応が認められた。これに対してEhrlich 癌細胞皮下移植に対して抗移植性を示すハツカネズミから健常無処置ハツカネズミへ移植された皮膚片は脱落しなかった。
6ヵ月後、皮膚移植を行った側と左右反対側背面皮下に5 x 106 個のEhrlich癌細胞を移植した。Ehrlich 癌細胞皮下移植に対して抗移植性を示すハツカネズミから皮膚片の移植を受けた無処置ハツカネズミ20匹は腫瘤は大豆大に発育したが、そのうち16匹は腫瘤 は次第に縮小吸収されて4週間以内に肉眼的に完治した。すでにEhrlich 癌細胞皮下移植に対して抗移植性を示すことが証明されていた他群のハツカネズミには全例移植に成功せず皮下移植に対して強い抗移植性の免疫があることが再 び確認された。
7週後、5 x 106 個のEhrlich癌細胞を腹腔に移植した。全例腹水が著明にたまり死亡した。Ehrlich癌細胞の皮下移植に対して抗移植性を獲得したときには同時に 同系皮膚移植に対する抗移植性をも獲得していたことが確認され、腫瘍移植免疫と皮膚移植の免疫とに共通点のあることがわかった。
皮膚移植によって同系ハツカネズミにEhrlich癌細胞皮下移植に対する抗移植性の免疫を移すことができた。
Ehrlich癌細胞の皮下移植に対しては強い抗移植性を示すようになったハツカネズミもEhrlich癌細胞の腹腔内移植に対しては強い抗移植性を示さなかったことはこの種の免疫現象の機転を考えるうえで重要なことがらでありさらに検討中である。

考察

発癌と担癌の問題を区別して考え、さらに実験動物の移植癌をiso-graft, 特発性の癌をauto-graftと見る観点にたてば、一個体を形成す る一生の間ののべ細胞数と、自然環境で放射線や化学物質やウィルスやその他の未知の諸因子をも凡て含めて、それらの原因が正常細胞を悪性(癌)化する確率 がもしすべて計算出来たと仮定した時、癌患者の発生の実際の割合と比べて癌発生の理論値の方が遥かに多ければ、癌はその発生後のきわめて早いある時期に、 グラフトに対する場合と共通な排除機転によって取り除かれてその個体につきえなかったものも少なくないという推測も可能である。一方これに反して自然治癒 しなかった癌だけが癌として我々の目にとまるに過ぎないということにもなる。すなわち癌と組織移植の免疫とに共通なものがあるとすれば癌の自然治癒に関す る理論的可能性を考えることができる。このような大胆な推論をも全面的に否定することが出来ないのが現在の著者の観点の一つである。
この要旨は第16回日本アレルギー学会総会において発表した。
御校閲を賜った山中太木教授に謝意を表します。

English Title for NO.6476:Experimentally acquired resistance to tumor transplantation and rejection of skin isografts in mice
Yoshisuke Enoki [Department of Microbislogy,Osaka Medical College,Takatsuki]Medicine and Biology.
74:March,10,1967.

  1. 榎木義祐:本誌 70(4): 197-200 1965
  2. 榎木義祐:南大阪病院医誌 14(1): 1-3 1966
(受付:1967年2月18日)
前の記事 コラム一覧へ戻る 次の記事
トップ