牛乳
その70.「牛乳」是か非か?(追補) やはり牛乳は日本人にはあわない!
生理学博士 久間英一郎
久間英一郎全国講演会では、毎回、「選食の視点」の重要な一つとして「身土不二」について解説しています。
今回は、この「身土不二」の観点から、「牛乳」の是非を論じてみたいと思います。
「身土不二」とは、身体と土壌(自然環境)は、二つ(別々)のものではなく、一体のものという意味で、ヒトが生れ育った地域で採れた食物を摂ることが一番無理がなく健康的であるという教えです。
ヨーロッパと日本の食文化を比較する時に一番重要なことは、両者の自然環境の違いをしっかりと認識することです。
図①は、ヨーロッパと日本を同一緯度、同一縮尺で示したものです。日本の北端は北イタリアのベネチアにあたり、日本が医学・栄養学を導入したドイツのベル リンやロンドン、パリは、日本のはるか北、すなわち日本よりはるかに寒い地域なのです。その上、雨が少ない。寒くて雨が少ないと作物は育ち難い。だから牧 草にして牛や羊を飼って、肉や牛乳を摂るしかなく、小麦を栽培しても硬い小麦(パン用)、パンは米より水分も少なく喉の通りも悪いため、バター・牛乳と共 に摂取することになる。つまり、肉・牛乳が中心、これが北ヨーロッパ人がその環境の中でつくり上げた食文化なのです。
一方、日本はというと、気候は温暖多雨、作物は成長し、米、小麦(うどん用)、野菜、イモ、豆、さらに味噌、醤油、納豆等の発酵食品、四方海を利した海の幸。まさに"抱食"ならぬ"豊食"に恵まれた食文化なのです。
図②でもおわかりの通り、元来ヒトは、離乳期を過ぎた頃から唾液のアミラーゼ活性が急激に高くなります。アミラーゼは、デンプンの分解酵素ですので、ヒト は穀物を主食とするのが自然な食性なのです。 日本人は、温暖な自然環境に住むことができたため、本来のヒトの食性に近い食文化を築くことができたのに対し、北ヨーロッパ人は日本よりはるか北に居住 したため、前述の通り、その自然が提供する牛乳、肉を中心とする食文化(すなわち、ヒト本来の食性から離れた)をつくるしか方法がなかったのです。
そこで、図③のように世界の大多数の民族が離乳期を過ぎるとラクターゼ活性が下り、乳糖を分解できずに下痢したりするのに対し、北ヨーロッパ人はラ クターゼ活性が下らない(すなわち乳糖を分解できる)という能力を数千年をかけて(恐らくかなり犠牲を払って)身につけたのです。
このように牛乳は、北ヨーロッパ人にとって、ヒト本来の食性から離れたとしても、厳しい自然環境を生き抜くための止むを得ない選択の産物だったのです。
こう見てくると、「豊食」に恵まれた日本人が、わざわざヒトの食性から離れた牛乳を負担覚悟で飲む必要がどこにあろうかと強く思う次第であります。「離乳というのは、一切の乳類・乳製品をやめること」(島田彰夫博士)