ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

選食

その31. 肥満は現代版栄養失調 "一物全体食"を見直そう!

生理学博士 久間英一郎

肥満は立派な病気です。しかも新たな病気を生み出す病気です。動脈硬化、高血圧、心臓病、脳卒中、糖尿病、腰痛等々。これらをもたらす肥満の原因が、食べ過ぎにあることは、論を待たない所ですが、それだけでは事の本質を見誤ってしまいかねません。

今回のテーマは、肥満を単なる食の量的な問題としてではなく、質的な問題(代謝効率)としてとらえるところにあります。欧米の二人の有名な博士の意見を聞いてみましょう。

英王立医学会議のトロウウエル博士は、「問題は口から入るカロリーではない。実際に体に吸収されるカロリーが問題なのだ。この点で繊維が多いと余計 なカロリーが体に吸収されないから肥満にならない」と言っています。また、米ヒルトン・ヘッド健康研究所のミラー博士は、正しい栄養のバランスさえとれれ ば、後は好きなように食べてもそれで減量できるとして、次のように言っています。「二〇世紀初めの頃、アメリカ人は現在より沢山のカロリーをとっていた が、肥満なんて問題はなかった。カロリーが減ったにもかかわらず肥満になるのは、食事のバランスが悪いために体のエネルギー代謝効率が低下していることが 大きな原因である」。

身近な所で焼き芋を例にとってもう少し説明します。焼き芋を食べて胸焼けしたときには皮を集めて食べると治まります。皮には芋のでんぷん質を分解す るためのビタミン・ミネラル等がたっぷり含まれていますので、それを食べると消化分解が円滑に進むからです。皮の分だけカロリーは高いのですが、皮つきだ から栄養のバランスがよく、代謝効率が高いから肥満にはなりません。

繰り返しますが、肥満は栄養のバランスの崩れが原因です。したがって、肥満は現代版の "栄養失調"なのです。栄養のバランスが崩れている分だけ、体内で燃えきれずに脂肪となって蓄積されると考えてもよいのです。

では、栄養のバランスをとるにはどう考えていけばよいのでしょうか。電卓片手に食品分析表と格闘する方もいらっしゃるでしょうが、これでは袋小路に 入るだけです。我々には、食養の先人が残してくれた「一物全体食」の教えがあります。「一つの物はその全体を食せよ」という教えです。米は玄米、芋や豆は 皮つきで、魚は頭から尻尾まで、野菜は葉から根までを食べると自然と栄養のバランスがとれるのです。なぜなら、これらの食は全体で生きているからです。

人が健康に生きていくためにバランスのとれた栄養を必要とするように、全ての生物もまた、バランスのとれた栄養を必要としているのです。だから「一 物全体食」は生命食そのものであり「超バランス食」なのです。天豆、ピーナッツ、芋は皮つきで、玄米が苦手な人は米ぬかを味噌汁に入れたり、糠漬を食べる といいでしょう。魚は小魚、エビは小エビで全体を食べましょう。刺身が好きな人はゼラチン質(コラーゲン)を忘れずに。こうすると自然のうちに栄養のバラ ンスがとれるのです。

やせるためにやせる食事をとることは意味がありません。肥満は病気ですから健康に近づく食事をして、その結果としてやせることが自然であり、本当の意味でのダイエットなのです。

昨今、QとかαとかLとかいう字のつく健康素材がブレイクしているようです。それらを食べることもそれなりに良いことでしょうが、筆者としては、「一物全体食」を実践してからでも遅くはないと思うのです。

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