ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

その他(食)

その21. 貝原益軒「養生訓」に学ぶ(上) 腹の中を戦場としてはならない

生理学博士 久間英一郎

今からおよそ300年前に書かれた本が、今静かな人気だそうです。江戸時代の医学者、貝原益軒が著した「口語養生訓」(松宮光伸訳註)がそれです。 益軒は、中国医学と儒学を学び、"人生50年"の時代にあって当時としては超長寿の84才まで生きました。その最晩年に書かれたのがこの本ですので、その 教えは、今日でも大いに参考になります。この本の中から2回に渡り、いくつかご紹介したいと思います。

まず、「飲食」について。

益軒は、「節度のある飲食こそ基本」とした上で、「およそ食べ物は、淡白なものを好むのがよい。高カロリー、味が濃いもの、脂っこいものなどをたく さん食べてはならない」という。食べる量は「腹八分目」を「適量」として、「ものたりないくらいがよい」。過度の飲食により、「腹の中を戦場としてはなら ない」「五味」(酸、苦、甘、辛、塩辛)のバランスをとり、「夜食(夕食)は早めに(軽めに)、深夜になってから飲食はしてはいけない」。

さらに、『穀は肉に勝つべし、肉は穀に勝たしむべからず』、すなわち、「主食はご飯であり、肉は食べても飯の"気"に勝つほどの量はいけない」また、「老人は食を少なめに」。そして、食べ過ぎ等で体調不良の時には、「食事は抜くことも必要」である。
"邪気"をとり除くためである。この件につき、訳者の松宮氏は言う。「カゼや胃腸病などで、あせって『栄養をつけなくては』と食事をとるよりも節食や絶食 の方が治癒を早めて効果的なことは決して少なくない。犬や猫は、絶食して体調を快復させるが、人間も少し見習う必要がある」。筆者も同感である。さらに、 「酒は夏でも温かい方がよい」しかし、「大食い、大酒飲みは、必ず短命に終わる」という。同様に、「四季を問わず、老人から幼児まで暖かいものを食べなさ い。夏こそ冷たいものに注意せよ」と。さらに、「ご飯本来の味をよく味わい」、何より、「感謝していただきなさい」食後には、「げっぷをしたり、手で顔、 腹、腰をなでたりして消化を助け、散歩など軽く体を動かすとよい、決して力仕事、激しい運動はよくない」と指摘する。

おもしろい所で、「怒ったあと、すぐに食事をしてはならない」「空腹の時、果物や菓子を多く食べてはならない」「ひどく疲れた時に多くを食べてはならない」という。いずれもうなずける点ばかりです。

〈参考図書〉
『口語養生訓』貝原益軒原著 松宮光伸訳註(日本評論社)
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