塩
その13. 塩のはなし(下) 自然塩を適量に!!
生理学博士 久間英一郎
本稿を書き始めようとしておりましたところ、5月6日、フジテレビで「減塩ブームのウソ」と題した番組があり、計らずも私の主張を裏付けてくれた形になり嬉しく思っております。
さて、今回も引き続き塩について書きます。
大阪医科大学元学長 山中太木博士は、オリンピック等で日本人選手が不振に終わった時よく「塩がいかん。塩がいかんのだ。」と言っておられました。昭和46年、法律によって 「自然塩」が姿を消し、イオン交換膜透析法による「化学塩」(塩化ナトリウム99%以上)のみになったため、体に必須なミネラル(にがり)が欠乏し、日本 人の体力、体質が著しく弱体化したことを博士は嘆いておられたのです。自然塩(ミネラル)は、細胞が健全に代謝活動をする上で決定的に必要な成分だからで す。
ここで、「自然塩」と「化学塩」の違いを端的に示す有名な実験を紹介しましょう。
2つの容器のアサリを入れ、一方には「自然塩」を、もう一方には「化学塩」を入れ、海水と同じ濃度の水にします。約3分後、「自然塩」では、8割が 口を開け水を出し始めるのに対し、「化学塩」で、口を開けるのはせいぜい2~3割なのです。アサリは、「化学塩」より「自然塩」を心地よく感じたのです。 「自然塩」の中に生命のモトを感じたのでしょう。我々人間も「自然塩」がいいに決まっているのです。
生命は海から生まれたと言われます。その証拠に人間の血液、体液や妊娠中の羊水に存在するミネラルバランスは、海水のミネラルバランスに非常に似ています。もし海水から取った塩がよくなくて減塩すべき存在ならば、胎児は十月十日羊水の中で育つはずがないのです。
くり返しますが、塩は悪くありません。ミネラル欠乏塩(化学塩)なら減塩よりむしろ禁塩にすべきで、生命のモトたるミネラル含有塩(自然塩)は適量の範囲で摂るべきなのです。
「自然塩」とはいえ、少し摂り過ぎた場合はどうするか。汗を出すのも一つの方法ですが、野菜類、イモ類、穀物類を味を付けずに食べると良いでしょ う。さつまいも、じゃがいも、そら豆、きゅうり、すいか、トマト等はよく塩をかけて食べます。なぜかというとこれらの食物にはカリウムが多く含まれ、これ が排出される時、ナトリウムも排出されますので塩(塩化ナトリウム)を加えてバランスをとる訳です。ですから塩を多く摂り過ぎた時には逆にこれらの食物を 塩なしで食べるとよいのです。日本人は、元来、穀菜食動物ですのでとりわけ塩が大きな意味をもっています。
今日の「自然塩」は、法律で禁止されたにもかかわらず、粘り強い消費者運動のかいあって部分的に認められたものです。「自然塩」の恩恵をしっかりいただき、日本が世界に誇る食文化を大切にして健康増進に役立てたいものです。
医聖と呼ばれた北里紫三郎博士は、「座右の銘」として次の言葉を残しています。
一. 食物に依る病は食物で治せ。
一. 細菌に依る病は細菌で治せ。
一. 毒物に依る病は水と塩で治せ。
一. 全ての生物が空気と水と塩を必要とする。
一. 太陽と大地は全ての食物を増産する。
塩に感謝。