コラーゲン
その90.バスコ・ダ・ガマの大航海に学ぶ 「ビタミンC」、「コラーゲン」、 「止血作用」の重要性
生理学博士 久間英一郎
コラーゲンの重要な働きの一つに「止血作用」があります。そしてこのコラーゲンの体内合成に絶対不可欠な栄養素がビタミンCなのです。今回は、この「ビタミンC」、「コラーゲン」、「止血作用」の一連の関係の重要性を示したエピソードをご紹介します。
時は大航海時代の1497年、ポルトガルのリスボンを出航したバスコ・ダ・ガマの一行は、南アフリカの喜望峰を抜け、ほぼ1年後にインドのカルカッタに到着したのですが、当初160名だった乗組員が到着した時には、約1/3の56名になっていたそうです。 2/3は血を吐いて死んでしまったというのです。その死因は何だったのでしょうか?
当時、船に積み込んだ食糧は、ビスケット、乾パン、干し肉等であったそうです。これらの食にはビタミンCがほとんど含まれず、そのためにコラーゲンがつくられなかったことが容易に想像されます。
もう少し詳しく言うと、コラーゲンをコラーゲンたらしめているアミノ酸にヒドロキシプロリンがありますが、これはプロリンとヒドロキシ基が結合した構造をしています。この二つが結合する際、ビタミンCがなくてはならないのです。
百科事典『ウィキペディア』も次のように言っています。「プロリンのヒドロキシル化にはアスコルビン酸(ビタミンC)が必要である。そのためビタミンCが不足するとコラーゲンの中のヒドロキシプロリンの割合が少なくなって安定性が低下し、壊血病を引き起こす。」
つまり、ビタミンCの不足によってコラーゲンの中核的存在たるヒドロキシプロリンがつくられなくなるため、コラーゲンの機能が著しく低下し、少しの刺激でも一旦出血すると止まらなくなり、死に至ってしまうというのです。これが壊血病なのです。2/3にも及ぶ乗組員達の死の原因はここにあったのです。
では、コラーゲンはどのようにして出血を止めるのでしょうか? 簡単に説明しますと、血管は図のようにコラーゲン繊維でできたメッシュをグルッと巻きつけたような構造をしています。ですので、何かの刺激によって血管が切れると血液は必ずコラーゲン繊維に触れることになります。そうすると、コラーゲンが血中の血小板を出血場所に引き寄せ止血をし、さらには血液のもっているあらゆる凝固因子をフル動員させてカサブタをつくって止血を完成させるのだそうです。
戦前には妊婦の陣痛が始まると、多量の出血に備えて200~300cc程度のコラーゲン注射をしていたという話を大阪医科大学元学長、山中太木博士から伺ったことがあります。これもコラーゲンの止血作用を利用したものです。
ヒトは「血管と共に老化する」と言われております。また「血管が老化すると骨まで老化する」とも言われております。
賢明な読者の皆様には、前記、「ビタミンC」、「コラーゲン」、「止血作用」の一連の関係をしっかりご理解いただき、血管をしっかり守って"大コウカイ"なんてことになりませんように...。
そのためには新鮮な野菜、果物、緑茶、じゃがいも、さつまいもでビタミンCを補い、そして忘れてはならない「転ばぬ先のコラーゲン」なのです。