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その81.糖質制限ダイエットには 危険がいっぱい!

生理学博士 久間英一郎

 昨今、肥満の原因は「糖質」にあって、糖質を制限することが肥満解消にも糖尿病他の病気の改善にも役立つという風潮が目立っています。今回は、この危険性を指摘したいと思います。
 確かに「糖質」を制限すると一時的には血糖値が下がり、そこそこの減量にもつながり、"短期治療法"としては多少の意味はあるのかも知れませんが、これを長期的に続けると大きな危険性があるのです。なぜでしょうか?
 それは、自然の摂理、人の食性を無視した行為だからです。全ての動物が長い進化の中で獲得した体の構造や機能を見ると、その動物がどういう食物を食べるべきかという「食性」がわかるのです。
 例えば、ヒトの歯の構造は、臼歯(穀物用)が20本。門歯(野菜用)が8本。犬歯(肉用)が4本となっていることからして、ヒトは紛れもなく穀物を中心に野菜、肉の順に食べるのがふさわしいことが見えてきます。その証拠に肉食獣のトラやライオンは、鋭いキバがほとんどで、爪もまたヒトと違ってカギ爪となっており動物を捕らえて食べるのに便利になっています。
 さらにヒトは他の動物と比べてアミラーゼ(糖質分解酵素)活性が高いことも穀物食=糖質食をヒトの主食にすることが自然であることを教えています。
 糖を制限すると、残りはタンパク質、脂肪ということに...そうなると結果的に肉食中心となり、「基本的に菜食民族である日本人が哺乳動物を食うということは、草食動物のウシがウシやヒツジを食うことと大きな違いはない。ウシやヒツジを食わされたウシに狂牛病(牛海綿状脳症)が発生したことは記憶に新しいだろう」(山梨医科大学名誉教授佐藤章夫氏)と動物の食性をはずすことの危険性を鋭く指摘しています。
 少し具体的に糖質制限の危険性を書くと、前述の通り糖質制限は必然的にタンパク質、脂肪の摂取量を増やす。
 その結果、腸内細菌叢が乱れ、血液が汚れ、ガン、脳梗塞、心筋梗塞、動脈硬化等の生活習慣病のリスクが増えるのです。
 さらに「糖質制限」は、肝臓で中性脂肪をケトン体に変えてエネルギーとするので、肝臓、腎臓により大きな負担をかけることになります。加えて長期の糖質制限は、かえって糖尿病の発生率を高めたり、ケトン体の上昇により骨粗鬆症や心筋梗塞の原因になったりもします。
 戦後の食生活の欧米化(肉・卵・牛乳摂取の増加、米摂取の低下)が様々な生活習慣病を招いたことは、周知の通りですが、この糖質制限食は戦後の食生活の矛盾をより加速させるリスクをはらんでいると言えそうです。

 欧米食の本家アメリカは、ガン、心筋梗塞の激増に危機感を覚え、巨費を投じてその原因を調査した報告書が、有名なマクガバン報告(1977)ですが、その冒頭の勧告文には、
①炭水化物(糖質)の摂取を増やし、摂取エネルギー総量の55~60%を占めるようにする。
②脂肪摂取量を摂取エネルギー総量の30%までに減らす。......とあります。
 そして、アメリカではこの勧告が契機となり、現在ではガンも心筋梗塞も減少して来ています。
 つい最近でも「同じカロリーの食事なら炭水化物(糖質)より脂肪を減らしたほうがダイエット効果が高い」(米国立保険研究所(NIH))と発表されたばかりです。
 以上、ヒトが穀菜食動物である限り、そして37兆の細胞を動かすエネルギーがほぼ100%糖質に依存する限り、糖質制限は危険を広げるだけなのです。

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