ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

伝統食

その122.「玄米食」は私たちに 何を伝えようとしているのか

学術室 水谷 裕之

 「一日ニ玄米四合ト 味噌ト少シノ野菜ヲタベ...」、皆さんご存じの宮沢賢治の雨ニモマケズの詩の一節です。この食事内容でどれくらいの栄養が摂れていたか実際に計算したところエネルギー2100kcal、たんぱく質は44g、脂質18g、炭水化物457gと理想的な健康食であり、しかもビタミン、ミネラルは厚労省の食事基準の数倍も摂れていることがわかったそうです。
 玄米はビタミンB群が多く、中でも糖質をエネルギーに変えるために必須のビタミンB1が糖質の多いお米と一緒に摂れる理にかなった『一物全体食』でもあります。食物繊維も白米の約6倍含まれていて、腸の蠕動運動を活発にしてお通じを良くしてくれます。さすがに白米を一日に四合の量も食べられませんし、白米にするとたんぱく質や脂肪を補うために肉や魚の量も増え、野菜も多く摂らなければなりません。
 しかし、玄米なら簡単な副菜で完全な栄養が摂れるので、『玄米ニ十徳』に記されている"経済(家計)も楽になる"というわけです。
 少し古い話になりますが、1981年10月『管理野球』が代名詞である広岡達朗氏が西武ライオンズの監督に就任しました。広岡監督の管理野球は、選手がベストコンディションでプレーするために「食事と睡眠で体調管理をする」というものでした。
 1年目の春季キャンプ、選手の夕飯に出てきたのは玄米、網焼きの貝、サラダ、漬物...当然ながら肉はなく、選手は辟易としたそうです。
 さらに広岡監督は自然医食療法を指導する森下敬一先生を招き、選手や選手の夫人、球団関係者を集めて自然食の講演会を行っています。シーズン中は玄米を主食に野菜や魚介類を副食として、肉は控え、たんぱく質の摂取は豆腐や豆乳などの豆類、魚などにするという食事を合宿所と選手の家庭で徹底させました。
 そのおかげで体調を崩す選手は減り、故障者も12球団で最も少なく、1982年と1983年の日本シリーズで連覇を成し遂げました。西武ライオンズの日本シリーズ連覇が「肉=スタミナ食」ではなく、玄米が最高のスタミナ食であると証明することになったのです。
 さて、話は変わりますが、最近ニュースなどで耳にする機会が増えた「SDGs(エスデイージーズ)」は2015年の国連サミットで採択された持続可能でよりよい世界を目指す国際目標で、17の目標から構成され2030年までに「誰一人取り残さない未来」の実現を目指しています。
 ところが昨年7月に国連機関により公表された「世界の食料安全保障と栄養の現状2023年版」によると、2022年の世界の飢餓人口は6億9,100万~7億8,300万人と推定され、依然としてコロナ前を上回り2019年から1億2,200万人も増加しています。この状況が続けばSDGsの目標2「飢餓をゼロに」の達成は難しく、2030年でも6億人近くが慢性的な栄養不足に陥っていると推測されています。
 世界で飢餓に苦しんでいる人々を救うには大量の穀物が必要ですが、世界の穀物の3分の1は畜産飼料に使われているのが現状です。例えば牛肉1㎏を得るには牛に穀類を7~10㎏も食べさせなければなりません。日本でも年間一人当たり約10㎏の牛肉が食されていますので、70~100㎏もの穀類が消費されていることになります。
 前述した通り、玄米を主とした食事は肉の量も少なくて済みます。消費する肉の量を減らせば畜産に使われる穀類の量も減り、飢餓に苦しんでいる人々へ供給を増やすことも可能になります。
 また、玄米100%のうち約8%がいわゆる糠です。糠には病気の予防や健康に役立つ様々な成分が含まれており、白米は栄養豊富な糠を削り落とした"もったいない現代食"というわけです。たとえ数%とはいえ、玄米食は食品ロスの削減になり、食料とそれに費やす資源の無駄を無くすことにもなります。
 断食療法で多くの患者を助けた甲田光雄先生は「玄米を主食とする少食が地球を救う」と論陣を張ってこられました。同じ地球上で過剰な栄養で病人が増える一方、飢餓のため命を失っていく人が併存しています。玄米食は私たちの家計や健康増強、生活習慣病予防に大いに役立ちます。
 ただそれだけでなく、玄米食は地球の貴重な資源を無駄に浪費しない、自分の命だけでなく他人の命を大切にすることを伝えているように思えてなりません。

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