コラーゲン
その121.ストレスから 身体を守ってくれる切り札!? 「コラーゲン」
学術室 水谷 裕之
11月も中旬、暦の上では二十四節気の立冬も過ぎ、冬の寒さに備えて準備を始める時季となりました。
この"寒さ"は、私たちにとってストレスの一因でもあります。ストレスには気温や気圧、騒音などの物理的なストレスや有害物質や薬物の化学的ストレス、家族や職場の不安、人間関係などの心理的・社会的ストレスがあり、私たちは様々なストレスに囲まれながら生活しています。
私たちの身体にストレスが加わると、脳が「代謝を活発にしてエネルギーの供給を増やせ」という指令を出します。
これは、原始時代から人が生命の危機に遭遇した時に体力を増強して「戦う」あるいは「逃げる」準備をするために備わっている大切な反応です。
体内では、副腎(腎臓の上にある小さな三角の形をした臓器)髄質からアドレナリン、副腎皮質からはコルチゾール、いわゆる"ストレスホルモン"を分泌してストレスに対抗します。これらのホルモンが血液中に放たれると心拍数や血圧が上昇し、血糖値が高まるため、身体全体にエネルギーが満たされてパワーを発揮します。「火事場の馬鹿力」もまさにこうした反応の表れです。
その一方で、胃腸の働きは鈍くなり、免疫の働きも低下するので、ストレス反応は消化機能や免疫力などを犠牲にして一時的に体力を限界まで高めている状態でもあります。
ストレスホルモンは、本来、ストレスに対する一時的な防御反応であり、ストレスから解放されれば元の状態に戻ります。
しかし、過剰なストレスが長期化すると、ストレスホルモンが"出っぱなし"になり身体は極度に疲弊してしまいます。
代表的な例は、ベトナム戦争後の退役軍人の研究によって知られるようになったPTSD(心的外傷後ストレス障害)です。
自分や他の誰かが危うく死にそうになる、または重傷を負う、身体の一部を失う脅威に曝されるといった外傷的な出来事に直面した後に発症します。
このような慢性的なストレスによって過剰にストレスホルモンが分泌されて脳内に溢れ出すと、海馬(学習や記憶に大きく関わる器官)の神経細胞が破壊され、海馬は委縮します。
海馬はデリケートで壊れやすく、ダメージを受けると記憶や感情に支障をきたす器官です。
うつ病の動物実験では、身体が自分より大きく強い雄マウスから毎日攻撃を受け、さらに仕切りを挟んで隣にずっと置かれたマウスは、敗北的なストレスを感じて体重や社会行動の減少、うつ症状などを示すようになるそうです。
この敗北的ストレスを受けたマウスにコラーゲンを摂取させると、海馬のダメージ(炎症)を軽減して、うつ状態の改善が見られます。
コラーゲンは海馬の神経細胞を増やすことも確認されていて、日常的なストレスから脳を守り、うつ状態を予防・改善する可能性を示しています。
また、ストレスは肌荒れやかゆみ・吹き出物といった様々な肌トラブルも引き起こします。心理的なストレスは乾癬やアトピー性皮膚炎などの皮膚症状を悪化させることが知られています。
ストレスによる肌トラブルの原因物質は、ストレスホルモンであり、肌のバリア機能を低下させたり、コラーゲンの産生量を減少させたりします。肌のハリとストレスホルモンの関係を解析すると、ストレスホルモンの少ない女性の方が肌のハリがあることがわかっています。
また肌の線維芽細胞を用いて、ストレスホルモンのない時とある時でコラーゲンの産生量を比較すると、ストレスホルモンがある時にはコラーゲンの産生量は減少します。
しかし、ストレスホルモンがある状態でコラーゲンを少しずつ加えていくと、徐々にストレスのない状態までコラーゲンの産生量は回復していきます。
つまり毎日ストレスの多い生活を送っている人たちにとって、コラーゲンは脳を守り、肌トラブルを軽減させてくれる切り札となるわけです。
過剰なストレスは心と身体を壊します。しかし、適度なストレスがないと人は充分な力を発揮することはできません。
ストレス学説を提唱した生理学者ハンス・セリエは「ストレスは人生のスパイスである」と言っています。 大切なのはストレスとどのように上手くつきあっていくかであると思います。