ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

コラーゲン

その119.若者やスポーツ選手だけじゃない 高齢者もプロテインの有効活用を

学術室 水谷 裕之

 プロテインと聞くと、マッチョなスポーツ選手がトレーニングの時に飲むものという印象が強いのではないでしょうか。そもそもプロテイン(Protein)とは、日本語で三大栄養素の一つ「たんぱく質」を意味します。したがって、 "プロテイン"という名前のついている商品は、「たんぱく質を豊富に含んだ食品」という意味になります。
 ところで身体の中のたんぱく質と言えば、多くの人は筋肉をイメージしますが、皮膚や髪の毛、爪もたんぱく質から作られています。ただ、これはごく一部の役割であって、たんぱく質は生命を維持するそのものと言われるほど、人体のほぼ全ての機能に関わっています。例えば、身体の機能を調節する「ホルモン」や食べ物を消化する「酵素」、ウイルスや細菌から身体を守る「抗体」、そして感情や気持ちを司る「神経伝達物質」も主な材料はたんぱく質です。英語のProteinはギリシャ語のProteios(プロティオス)に由来し、その意味は「最も重要なもの」。語源からもその大切さがよくわかります。
 しかし、たんぱく質の摂取量は、戦後間もない頃と同じ水準まで減少していることをご存知でしょうか。厚労省の調査によると1975年から1995年までは1日80g前後の摂取量を維持していましたが、1995年の81.6gを境に徐々に減少し、2010年には67.4gと1950年(昭和25年)の70.2gを下回りました。その後、徐々に増加して2019年には71.4gとなりましたが、それでも1955年当時と同程度です。
 話は変わりますが、2019年12月、中国武漢で新型コロナ感染症が確認されてから世界的に感染が拡大しました。時を同じくして、プロテイン商品のブームがやってきます。プロテインには、溶かして飲む粉末タイプや、たんぱく質を含む飲料やバータイプなどがあります。民間の調査会社によれば、2021年のプロテインの市場規模は2011年の4倍を超えたとみています。ブームの背景には新型コロナによる生活意識・行動の変化があることは言うまでもありません。
 特に"コロナ太り"はブームに大きな影響をもたらしました。在宅時間が増えて身体活動量が減ることにより消費カロリーは減少、その一方で、変わらない食事量と増える間食で体重は増加します。この事態にプロテインを摂取して、筋トレやストレッチなど室内でできる運動を行って美しく健康的に痩せるために、30~40代の女性を中心にプロテインのニーズが拡大しました。
 そして高齢者のフレイル(虚弱)対策も一因となっています。フレイルとは「健康な状態と要介護状態の中間」に位置し、身体的機能や認知機能の低下が見られる状態を言います。厚労省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で、高齢者のフレイル予防の観点から65歳以上のたんぱく質の目標量の下限値を引き上げました。この行政の動きもプロテインが注目されるきっかけになったと思います。特に高齢者は、身体活動量が低下すると食欲も低下し、食事の摂取量が減少してさらに低栄養状態となります。筋力低下を防ぐにはたんぱく質は必須で、毎日の食事で肉や魚、大豆などから摂るのが理想的です。しかし、充分に摂れない時にはプロテインの粉末を飲み物に溶かして飲むなど上手に活用すると栄養状態を改善することができます。最近では若者だけでなく、筋力低下や足腰の衰えの予防のためにプロテインを購入する50~70歳代が増えているそうです。
 さて、粉末タイプのプロテインにはいくつか種類があり、それぞれに特徴があります。牛乳の乳清を成分としたホエイプロテインは水溶性で吸収が早く、運動直後の筋肉痛を軽減して筋肉をつけるのに役立ちます。同じく牛乳の乳液を成分としたカゼインプロテインは、不溶性で固まりやすく、身体への吸収がゆっくりでたんぱく質を持続的に蓄えるのに向いています。また、大豆たんぱくから作られるソイプロテインはガゼインと同様に消化吸収が遅く、腹持ちが良いのでダイエット向きのプロテインとも言われています。利用する際には用途に合わせて選ぶと良いでしょう。余談になりますが、ヨーロッパの研究では、プロテインだけよりもコラーゲンを加えて摂取し、運動を行うと効率的に筋肉を増やせるという研究報告もあります。
 充分なたんぱく質の摂取は必須です。しかし、摂り過ぎは健康を害するリスクになりますので注意も必要です。60歳以上は、体重1kg当たり、1日1g程度が目安です。

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