その他(食)
その117.食品添加物を正しく理解 食生活を安全により豊かに
学術室 水谷 裕之
「安全を考えて保存料は添加してありません」という商品と、もう一方で「安全を考えて保存料を添加してあります」と表示された2つの商品があった場合、多くの人は前者を選ぶのではないでしょうか。おそらく「添加物=危険な化学物質」、「無添加=安全」あるいは「天然=安全」という思考が働くからだと思います。食品の安全性を損なうものは食品添加物で、食品添加物がなければ本当に食品は安全なのでしょうか。
肉や魚介類、これらを加工した食品はウイルスや細菌が繁殖して食中毒の原因となりやすい食品です。また、キノコやフグなど自然に存在する有毒な物質が含まれているものもあります。未だに日本でも年間2〜3万人の食中毒患者が出ています。自然な食品であっても本質的に危険性があることは理解しておかなければなりません。食品添加物としての保存料は食中毒を発生させる菌の繁殖を抑制して、食品を安全に届ける役割を担っているのです。
人類は定住して生活をするようになった紀元前約1万年前、偶然の発見から食べ物に味を加えたり、保存する方法を身に付けてきました。紀元前数千年頃、古代エジプト人は肉や魚の保存に岩塩を使っていました。岩塩には肉の色を良くし、風味を増して、食中毒にかかりにくくする働きがあることを既に学んでいたのです。後に岩塩には硝酸塩が含まれていて、発色や保存に役立つ成分「亜硝酸塩」に変わることが解明され、現在ではハム・ソーセージの発色剤として使用されています。また、中国では千数百年前、塩の袋からにじみ出た苦みのある汁「にがり」を大豆に加えると、その汁が固まり豆腐になることを発見しています。先人の食品の知恵が現在の食品添加物として受け継がれています。
このような歴史とは反対に、食品添加物には常にネガティブなイメージが持たれています。食品に何かを加えるということに対する印象の悪さもありますが、社会問題にもなった森永ヒ素ミルク事件(1955年)やカネミ油症事件(1968年)なども大きく影響しているのではないかと思います。環境汚染や工程管理上のミスによって起こった事故なのですが化学物質が関係していたため、「添加物=害」というイメージが出来上がってしまったのかもしれません。
食品添加物の安全性について、日本では指定された食品添加物しか使用してはならないという制度が世界に先駆けて導入されています。その後も科学の発展や法改正などによって食品添加物の評価法や安全性が見直され、現在ではより安全な食品添加物だけが使用されています。そして、ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される「一日摂取許容量」が定められています。厚生労働省では食品添加物をどの程度食べているか定期的に調査を行い、その摂取量が数%か1%以下と「一日摂取許容量」を十分に下回っていることを確認しています。
そもそも「指定添加物」に分類される食品添加物の多くは野菜や果実、魚、肉などの食品にもともと含まれている成分です。天然、合成など製造方法に関わらず厳格に安全性とその有効性が審議されてその使用が認められています。いわゆる天然添加物として使用が認められている「既存添加物」や「天然香料」、「一般飲食物添加物」もまた昔から食品に使用されているものが多く、その安全性は経験的によく知られています。
私たちはTVや雑誌などのメディアが発信する科学的根拠に欠けた情報によって食品添加物に対する不安をいだき、危険な物質と誤解しているところも多いのではないでしょうか。食品添加物が毎日の食生活を営む上でどんな役割を担っているか、まずは正しく理解することが大切だと思います。但し、食品添加物を別の視点で考えた場合、高度に加工された食品も多く存在することです。昔の黒砂糖が白砂糖に精製されて、植物由来の貴重なミネラルが欠けてしまったように、加工食品の摂り過ぎは栄養素の欠損や過剰な塩分による栄養素の偏りが起こります。加工食品を上手に活用しつつも栄養バランスを考えて多種類の食品を摂るように心がけることも大切です。確かな眼を身に付けることによって、私たちの食生活はずっと安全で、より豊かになるはずです。