ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

その他

その116.おしっこの悩み、 『充分溜めて、すっきり出し切る』

学術室 水谷 裕之

 トイレが近くなる「頻尿」、咳やくしゃみをした瞬間の「尿漏れ」。おしっこの悩みは、50代60代と徐々に増えているのですが、デリケートな事象なので相談できず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。膀胱は「おしっこ(尿)のタンク」のようなもので、その容量がいっぱいになってくると尿意が起こるという仕組みになっています。膀胱の容量は300~400ミリリットルで、尿が150~200ミリリットル溜まると尿意が起こります。しかし、年を重ねるにつれて膀胱のしなやかさが失われて尿を充分に溜められなくなります。膀胱のしなやかさは血管のしなやかさと同じで、生活習慣病などの影響で動脈硬化が進むと膀胱への血流が悪くなり、膀胱が硬くなってしまいます。その結果、若い時ほど尿を溜めておけなくなり、トイレが近くなります。まずは肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病を予防することからです。
 そして尿を充分に溜められなくなる原因には神経の働きも関係しています。膀胱に尿を溜めている時には、交感神経の働きによって膀胱の筋肉は緩んで尿を溜めつつ、膀胱の出口の筋肉はギュッと収縮させて漏れないようにしています。一方、トイレに行って出す時には、脳が「おしっこを出してもいいよ」という信号を膀胱に送ります。今度は副交感神経の働きによって膀胱の筋肉は緊張し、膀胱の出口の筋肉は緩んで尿が尿道へと押し出されていきます。誰しも緊張してトイレに行きたくなった経験はあると思いますが、ストレスを感じて膀胱がまだいっぱいではないのに尿意が起こることがあります。そして、ストレスを感じる傾向は加齢にともなって強くなり、脳が間違った命令を出す場合があります。膀胱に少ししか尿が溜まっていないタイミングで早めにトイレに行くことを繰り返していると回数も増え(頻尿)、膀胱が過敏に反応して充分に尿が溜められなくなります。「トイレに行きたい」と思ったら5分程度我慢してみましょう。5分後に尿意が消えたら次からは10分、15分と少しずつ時間を伸ばして試してみます。そうすると徐々に膀胱の伸縮力が改善し、過敏な反応も治まってきます。また、トイレの近い人は必要以上に水分を摂り過ぎない、利尿作用のあるカフェインの多い飲料や膀胱を刺激する柑橘系や炭酸飲料、アルコール類の摂り過ぎに注意も必要です。
 もう一つの悩み「尿漏れ」は、くしゃみや咳、重いものを持った時などお腹に力を入れた時に起こりやすい。膀胱や尿道はハンモックのように骨盤底筋によって支えられていて、尿が漏れそうになると膀胱の出口や尿道を締めて尿漏れを防いでいます。しかし、運動不足や加齢による筋力低下、肥満などが原因で骨盤底筋の筋肉や靭帯が緩んで、しっかり締まらなくなって尿漏れが起こります。とくに女性の場合には妊娠や出産が大きく影響しています。骨盤底筋が衰えると骨盤内にある膀胱や子宮、直腸の位置が下がり過ぎて体外に出てしまう骨盤臓器脱という症状を起こすことがあります。余談になりますが、骨盤底組織のコラーゲン量の減少が骨盤臓器脱に影響していると示された海外の論文があります。ここでも身体の中のコラーゲンが大切な役割を果たしているのがよくわかります。
 さて、骨盤底筋は日ごろから意識してトレーニングを続けていると強化できます。簡単にどこででもできる方法は、例えば通勤電車やバスの中で立っている時におしり(肛門)をキュッと締めてグッと上に持ち上げる運動や、座席であれば背筋を伸ばして膝と太ももをぴったりとくっつけて座ります。骨盤底筋が内ももの筋肉と協調して動くので骨盤底全体の強化に役立ちます。また、背筋をピンと伸ばして、大股で歩くことも効果的です。下腹の内側にある筋肉が鍛えられ、膀胱の筋肉を伸ばしてくれます。このような運動を続けていると、ふいに尿意を感じた時にも咄嗟に漏れを防いでくれます。
 『充分溜めて、すっきり出し切る』膀胱の伸縮力を改善するトレーニングや骨盤底筋トレーニングなど簡単なセルフケアがおしっこの悩みを解放に導いてくれます。

前の記事 コラム一覧へ戻る 次の記事
トップ