ピーエスの取り組み - 過ぎたるは及ばざるに劣る

睡眠

その115.「良質な睡眠を得るためには、睡眠時間を削ること!」

学術室 水谷 裕之

 久間英一郎の遺志を引き継ぎ、この度から『過ぎたるは及ばざるに劣る』を担当する学術室の水谷と申します。
 みなさまに有意義な情報をお届けして参りますので、よろしくお願いいたします。
 年齢を重ねるにつれて長く眠れなくなるというのは誰しも聞いたことがあり、今まさにそうだと感じている方も多いかもしれません。これは事実。しかし、睡眠時間が短くなっているわけではないようです。
 厚労省の『令和元年国民健康・栄養調査』によると、1日の睡眠時間が「6時間以上8時間未満」の割合は60歳代および70歳代の男性では55%以上、女性の場合でも50%以上の方が充分に睡眠時間を確保できています。
 睡眠時間は生活習慣病や寿命とも関係が深く、2002年に行われたアメリカの調査では、男女とも1日の睡眠時間が 6.5~7.4時間の人が最も長生きだったという結果が出ており、健康な人の睡眠時間は、人種・地域・時代に関わらず、おおよそ決まっているそうです。日本の国立がんセンターの研究でも睡眠時間が7時間のグループと比べて、10時間以上では死亡のリスクが男性で1.8倍、女性で1.7倍高くなったというように「睡眠時間が長くなると寿命が短くなる」ことを示しています。「1日に最低8時間の睡眠が健康に良い」と言われますが医学的な根拠はなく、身体が必要とする睡眠時間は6時間以上8時間未満で、これくらいの時間が最も健康だということがわかっています。
 さて、睡眠時間が確保できている一方で「寝つきが悪い」、「夜中に目が覚めてしまう」、「眠りが浅い」など不眠に関する悩みを訴える方も多くいます。
 年齢を重ねるとぐっすり眠れなくなってしまうのは「深い睡眠が少なくなる」という生理的な現象によるもの。睡眠には、深い眠り(ノンレム睡眠)と浅い眠り(レム睡眠)があり、これらがセットになって約90分周期、一晩の睡眠では4~6回繰り返されます。浅い睡眠は、日中の経験を記憶として定着させる精神的なバランスを整える役割、深い睡眠は、身体や脳の休息と成長ホルモン分泌による身体の成長やアンチエイジングの役割を果たしています。個人差はありますが、深い睡眠は20歳代、30歳代の頃と比べると、50歳以上では半分から3分の1程度まで減少します。深い睡眠が短くなり、脳が活動している浅い睡眠が相対的に長くなるため、音や光、温度などちょっとした刺激で目が覚めやすくなってしまい、「長時間寝ているのに、熟睡した感じがしない」という状態に陥りやすいのです。
 年を取ると深い睡眠が減少する詳しいメカニズムはまだよくわかっていませんが、その一端として"間違った寝過ぎ"が影響している可能性があります。  例えば、定年退職した後、仕事関連の時間が大幅に減って時間にゆとりができ、生活リズムの変化もきっかけとなって必要以上に長く寝床で過ごす、テレビを見る時間が増えるケースも稀ではありません。深い睡眠は、起きている時間の長さや日中の活動量に影響されるため、家にいることが増え、長い昼寝等によって1日の睡眠時間が長くなる、身体をあまり動かさない生活になると深い睡眠は得られなくなります。健康的な睡眠時間は1日7時間前後。残りの17時間は起きている時間です。深い眠りを得るためには起きている17時間の活動によって決まるわけです。
 実際に、日中の活動量が多い高齢者では睡眠の質も充分に保たれており、日本人高齢者を対象にした研究では、1日30分以上のウォーキングを週5日以上実施している人や週5日以上の運動習慣がある人では、不眠の悩みが少ないと報告されています。
 眠くなる仕組みには「夜になると眠くなる仕組み」と「脳が疲れて眠くなる仕組み」があり、起きている時間、脳は活動を続けているため次第に疲れていきます。最近の研究では、睡眠物質と呼ばれるものが関係し、起きている時間に比例して睡眠物質が脳の中に溜まっていき脳を休ませるために眠気が起こると考えられています。
 良質な睡眠を得るためには日中ボーっとテレビを見ているだけでなく、読書や趣味など脳や身体を働かせる活動を積極的に取り入れることが必要です。誰かと話すことも良いでしょう。
 睡眠の対義語は覚醒です。「良く眠れること」は「良く起きていること」の裏返し。「良く起きていること」とは脳や身体を積極的に使うこと。起きている時の努力こそが良質な睡眠を得るためにできる唯一の戦略なのです。

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